アナリストの忙中閑話【第141回】

アナリストの忙中閑話

(2023年2月16日)

【第141回】日銀正副総裁人事、バイデン大統領一般教書演説、アカデミー賞ノミネーション、HAOとET、終末時計、注目映画多数公開

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

政府は2月14日、衆参両院に、日本銀行総裁及び2人の副総裁の人事案を提示

政府は2月14日、衆参両院の議院運営委員会理事会に、日本銀行総裁及び2人の副総裁の人事案を提示した。

黒田総裁(78)の後任には、日銀の元審議委員で経済学者の植田和男氏(71)を、副総裁には前金融庁長官の氷見野良三氏(62)と日銀理事の内田眞一氏(60)を充てる。

衆院では24日に所信を聴取、参院でも同様に所信聴取後、両院で人事案を採決する。国会同意後、内閣が任命。

市場では、総裁候補は、雨宮日銀副総裁が本命で、中曽元副総裁が対抗馬とみられていたことから、ダークホースの起用となった。但し、日本経済新聞や時事通信によると、雨宮氏や中曽氏ら有力候補は総裁就任を固辞したとも伝えられている。

日銀総裁への民間人の起用は、1964年から1969年まで総裁を務めた元三菱銀行頭取の宇佐美洵氏以来。

国会同意人事には衆院の優越の規定はないため、両院での可決が必要だが、3候補とも金融政策の専門家であり、偏りのない無難な人選であることから、3月19日の雨宮・若田部両日銀副総裁任期満了までには両院での同意が整うとみられる。

なお、植田氏はかねて、量的緩和の実効性にはやや懐疑的で、むしろ、成長戦略を重視する姿勢を示していた。一方で、急激な金融政策の正常化にも否定的である。拙速は避けつつも、緩やかなペースでの政策修正を進めるとみられる。

バイデン大統領が就任後2回目の一般教書演説、内政重視

バイデン大統領は2月7日午後9時過ぎから(日本時間2月8日午前11時過ぎから)、米上下両院合同会議で、2022年3月に続き、就任後2回目の一般教書演説に臨んだ。

一般教書演説は「State of the Union Address」の名の通り、本来、内政報告のため、就任1年目の演説(バイデン氏の場合2021年4月の演説)は単なる議会演説、「Address to Congress」と呼ばれる。

結果、一般教書演説は内政に対する施政方針が主体で、外交課題は後段でふれられるのが一般的。

昨年は全体1時間強のうち、冒頭の12分間をウクライナ危機に費やしたが、今回は全体1時間20分弱のうち、冒頭から政府調達の「バイ・アメリカン」等、国内問題を取り上げ、ウクライナ戦争や対中政策等外交問題は終盤でふれられた。「1,200万もの記録的な雇用を創出した。ほかのどの大統領が4年間に成し遂げたより大きな成果だ」と、記録的な雇用創出等自らの実績もアピール。今夏に焦点となるとみられる米連邦政府の債務上限問題については超党派での取り組みを呼びかけた。

一方、米国にとって脅威対象であるロシアや中国等の名前は出たが、我が国を含め、同盟国の国名や台湾は挙げられず、基本的に内政重視の演説となった。

ネジレ議会により、議場の景色も変化

テレビの映像から見える議場の景色も変化。

2021年の議会演説及び2022年の一般教書演説では、バイデン大統領の後ろ側には、上院議長を兼ねるカマラ・ハリス副大統領とナンシー・ペロシ下院議長が陣取り、両者が毎回、スタンディング・オベーションを実践していた。

但し、2022年の11月の中間選挙で下院は共和党が多数派となり、いわゆる「ネジレ議会」となったことで、ケビン・マッカーシー氏が下院議長として、ペロシに代わり、バイデン氏の後方に座ることになった。

ハリス氏に比べると、マッカーシー氏のスタンディング・オベーションは4-5回に一回程度(筆者の観測)と、民主党と共和党の議会での対立構造がビジュアル的にも明確となった。

マッカーシー議長の下での下院運営の先行きは不透明

それでも、冒頭、バイデン氏がマッカーシー氏の下院議長就任を祝福するとマッカーシー氏は満面の笑みとなり、最後も両者は笑顔で握手して別れたが、議場の共和党下院議員に中には、全く起立も拍手もしない議員もみられた。

そうした状況を意識していたか、バイデン氏は2021年1月の大統領就任演説同様、超党派の協力を呼びかけるフレーズが目立った。「共和党の友人たちよ、前期の議会で協力することができたのであれば、今期の議会で協力することができない理由はない」と協力を訴えたが、社会保障・メディケアの維持や富裕層向けの増税に言及したシーンなどでは、共和党議員から強いブーイングが出るなど、対立が緩和された訳ではなさそうだ。

議長選挙での可決が15回目と、164年ぶりの10回以上の採決となったように、マッカーシー議長の下での下院運営の先行きは不透明と言えそうだ。

バイデン大統領は演説で中国について、「米国の国益を前進させ、世界の利益となり得る分野では中国と協力することに努める。しかし間違えないでほしい。先週明確にしたとおり(筆者注:中国の偵察気球撃墜を念頭か)、中国が我々の主権を脅かせば、我々は米国を守るために行動する。そして我々は行動した」と述べ、外交政策では、ウクライナを侵攻したロシアとともに、国名を挙げ、警告した。

注目されるのは、ゼロコロナ政策を放棄した中国の動向、当局は関連死8万人と発表も疑問

その中国だが、ゼロコロナ政策の突然放棄により、中国では過去最速・最大規模の感染爆発が発生した。

中国の国家衛生健康委員会(NHC)は1月14日の記者会見で、ゼロコロナ政策が撤回された12月8日以降、1月12日までに、COVID-19の感染者6万人近くが死亡したと発表した。

その後、13-19日までの死者数(1万2,658人)、20-26日の死者数(6,364人)、27-2月2日の死者数(3,278人)2月3-9日の死者数(912人)を追加すると、8万3,150人(12月8日-2月9日)となる。

中国CDCによると、死者数のピークは1月4日の4,273人で、その後は減少に転じ、2月13日は9人としている。

但し、同統計は入院患者のみが計上され、検査を受けずに自宅などで死亡した場合などはCOVID-19関連死と計上されていないことから、統計の信ぴょう性は疑わしいと言えそうだ。

英国の医療関連調査会社エアフィニティーは2月15日、中国でのCOVID-19による死者数が1日当たり1万7,600人に上っているとの試算を示した。12月1日以来の累計死者数は147万人と試算。

1日当たりの新規感染者数は180万人、12月1日以来の累計感染者数は1億9,700万人と試算。

同社は1月17日に、モデルを更新。春節(休日は1月21日から27日)の移動等により、今回の感染波は従来の2波ではなく、春節の時期である1月26日には死者数がピークに達し、1日当たり約3万6,000人になると見込んだ。旧モデルの2 つの小さな波と比べ、1つの大きな波の影響は、病院と火葬場への圧力が高まり、したがって致死率が高くなる可能性もあるとしている。今回の感染波で予想される感染総数は2億2,800万件で変化ないが、新しいモデルでは、以前の予想よりも早く発生すると推定。

米ワシントンポスト(1月9日付)も北京、昆明、上海、南京、成都、唐山の衛星画像やSNSに投稿された現地の映像等から、火葬場が大混雑し、COVID-19関連の死者が急増していると報じている。

中国で未曾有の感染爆発、既に感染者は人口の過半に上った可能性

一方、米ワシントン大学のIHME(保健指標評価研究所)の2022年12月16日付け試算では、中国における2023年3月時点の一日の感染者は約300万人、一日の死者は2023年3月下旬時点で約5,000人と予測していた。

昨年末からの中国の感染者数は、IHME等の予測を大幅に超えた可能性が高そうだ。その後の報道等からは、こうした予想を大きく上回る感染爆発が起きたことを窺わせる。

中国のニュースサイト「経済観察網」は1月13日、国内での新型コロナウイルスの累計感染者数が推計9億人に達したという北京大学国家発展研究院の研究者の報告書について報じた。

推計はインターネット上での「発熱」「せき」といった単語の検索数やアンケート調査を基に行われた。内陸部の感染率が特に高いとみられ、甘粛省は91%、雲南省は84%、青海省は80%に上った。感染者の82%に発熱の症状があったという。但し、同推計は公式データに基づくものではなく、記事は既に閲覧できなくなっている。

一方、中国CDCの疫学首席専門家の呉尊友氏は、中国は今冬3回の感染波が予想されるとしていたが、第1波が予想以上に大きなものになり、統合されたようだ。

北京で2022年12月17日に講演した呉氏は、第1波が2023年1月中旬まで続くと予想。第2波は、1月21日の春節を控えた帰省ラッシュが引き金となって、1月下旬から2月半ばまで続くと予想。人々が仕事に戻る2月末から3月中旬にかけて第3波が起きると、呉氏は予想していた。

然るに1月21日、呉氏は、SNSで中国全土の「80%が既に感染した」との見解を示した。22日の春節前後の連休で大勢の人が移動するため、局地的に感染が拡大する可能性があると指摘した一方、既に全国の80%が感染していることから、近く第2波が発生する可能性は低いとしている。

中国で2022年12月頃から発生した感染爆発は過去最速・最大ぺースとみられる。今冬、一日、1千万人以上が感染したとすると、既に、感染者が人口の過半を超えた可能性がある。

中国は、ゼロコロナ政策から一気に集団免疫政策に転換し、僅か2か月足らずで、期間に限りはあれど、一定程度の集団免疫を獲得した可能性がある。

ゼロコロナ政策が放棄されても、2019年以前の中国に完全に戻ることはなさそう

但し、現在、中国で感染が拡大している株はオミクロン亜系統株のBA.5及びBF.7と考えられる。仮に全員が感染しても、数か月後には、より感染力や免疫逃避力が増したXBB.1.5等の亜系統株の感染が拡大する可能性もある。

米国の感染事例をもとにした西浦教授の試算では、XBB.1.5の感染力はBA.5の1.47倍。

また、感染による後遺症も懸念される。

欧米では、経済再開後、いわゆる「リベンジ消費」や「ペントアップ(繰越)需要」が急拡大した一方、人手不足が深刻化、供給制約からのインフレが高進した経緯にある。

ゼロコロナ政策の影響で物価上昇が抑制されていた中国で、インフレが高進することになると、世界のインフレ動向や欧米中銀の金融政策にも影響が及ぶことが想定され、今後の動向が注目される。

第95回アカデミー賞ノミネーション

米アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは1月24日(現地時間)、第95回アカデミー賞のノミネート作品を発表した。

ミシェル・ヨーさん主演の『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(今月号で特集)が作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞2人、衣装デザイン賞、編集賞、作曲賞、歌曲賞(主題歌賞)と10部門11ノミネートと最多となった。

次いで、『西部戦線異状なし』が9部門ノミネート。アカデミー賞を受賞した1930年公開のルイス・マイルストン監督作品でも知られる、ドイツの作家エリッヒ・マリア・レマルク氏の長編小説「西部戦線異状なし」を、原作の母国ドイツであらためて映画化した戦争ドラマ。英国アカデミー賞でも最多14部門にノミネート。

1月号で特集した『イ二シェリン島の精霊』が8部門9ノミネートとなった。

また、本コラムで取り上げた『エルヴィス』が8部門、『フェイブルマン』が7部門(今月号で特集)、本コラムで度々特集した『トップガン マーヴェリック』と『TAR ター』(5月12日、日本公開予定)が6部門にノミネートされた。

作品賞ノミネート作品は、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、『トップガン マーヴェリック』、『イニシェリン島の精霊』、『フェイブルマンズ』、『TAR ター』、『エルヴィス』、『アバター ウェイ・オブ・ウォーター』、『西部戦線異状なし』、『ウーマン・トーキング 私たちの選択』、『逆転のトライアングル』の計10作品。

なお、本コラムで特集、現在でも上映が続いている『RRR』 が「Naatu Naatu」で歌曲賞(主題歌賞)にノミネートされた。同部門でのインド映画のノミネートは、本作が初。

第95回アカデミー賞授賞式は、3月12日(日本時間13日)に開催される。

映画観客動員ランキングで『鬼滅の刃』が2週連続1位に

前週末(2月10日-12日)の映画の観客動員ランキングでは、前週1位で初登場した『ワールドツアー上映「鬼滅の刃」上弦集結、そして刀鍛冶の里へ』が2週連続で1位となった(興行通信社調べ、以下同じ)。累計成績は動員147万人、興収20億円を突破。

2位は公開11週目に突入した『THE FIRST SLAM DUNK』。累計成績は動員711万人、興収103億円と100億円を突破。

3位は前月号で特集した『レジェンド&バタフライ』。累計成績は動員129万人、興収16億円を突破。木村拓哉さんの鬼気迫る演技と新たな「本能寺の変」の描き方に注目。

4位は『すずめの戸締まり』。累計興収135億9千万円で、歴代ランキング17位に浮上。

5位には、『タイタニック:ジェームズ・キャメロン25周年3Dリマスター』が初登場でランクイン。世界的大ヒットを記録した『タイタニック』の公開から25周年を記念し、キャメロン監督自らが映像を一新し、3Dリマスター版として期間限定公開中。

他に、前月号で特集した作品では、ブラッド・ピットさんとマーゴット・ロビーさん共演の『バビロン』が初登場で6位に、中島裕翔さん主演の『#マンホール』が同じく初登場で8位にランクイン。両作品とも、過去にあまり見ない異色のスタイルに仕上がっている。

大作洋画に加え、『シン・仮面ライダー』など邦画の注目作品が続々公開

3月に向けても、大作洋画に加え、邦画の注目作品が相次いで公開される。しかも、公開数が多いのが特徴。

2月17日公開の『アントマン&ワスプ クアントマニア』は、『アベンジャーズ』シリーズをはじめとしたマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)を構成する『アントマン』シリーズ第3弾。

アントマンことスコット・ラングは、実験中の事故によりホープや娘のキャシーらとともに未知の量子世界に引きずり込まれてしまう。スコットは、誰も到達したことがなかった想像を超えたその世界で、サノスをも超越する、すべてを征服するという謎の男カーンと出会う。

体長1.5センチの世界最小のヒーロー、アントマンことスコット・ラング役にポール・ラッドさん、アントマンのパートナーとして戦うワスプことホープ・ヴァン・ダイン役のエバンジェリン・リリーさんをはじめ、マイケル・ダグラスさん、ミシェル・ファイファーさんらおなじみのキャストが集結。シリーズ前2作を手がけたペイトン・リード監督が今作でもメガホンをとった。

2月17日公開の『シャイロックの子供たち』は、WOWOWでテレビドラマ化もされた池井戸潤氏の同名ベストセラー小説を、阿部サダヲさん主演、『空飛ぶタイヤ』を手がけた本木克英監督のメガホンで映画化。小説版、ドラマ版にはない独自のキャラクターが登場する完全オリジナルストーリー。

東京第一銀行の小さな支店で起きた現金紛失事件。お客様係の西木雅博は、同じ支店に勤務する北川愛理、田端洋司とともに、事件の裏側を探る。西木たちは事件に隠された一つの真相ににたどりつくが、それはメガバンクにはびこる、とてつもない不祥事の始まりにすぎなかった。

西木役を阿部さん、北川役を上戸彩さん、田端役を玉森裕太さんが演じ、柳葉敏郎さん、杉本哲太さん、佐藤隆太さん、柄本明さん、橋爪功さん、佐々木蔵之介さんらが共演。

同じく2月17日公開の『BLUE GIANT』は、2013年から小学館「ビッグコミック」にて連載開始した石塚真一氏の人気ジャズ漫画「BLUE GIANT」を『名探偵コナン ゼロの執行人」の立川譲監督でアニメ映画化。

ジャズに魅了され、テナーサックスを始めた仙台の高校生・宮本大(ミヤモトダイ)。毎日たったひとりで何年も、河原で吹き続けてきた。卒業を機に上京し、高校の同級生・玉田俊二のアパートに転がり込んだ大は、ある日訪れたライブハウスで同世代の凄腕ピアニスト・沢辺雪祈と出会う。大は彼をバンドに誘い、大に感化されドラムを始めた玉田も加わり3人組バンド「JASS」を結成。楽譜も読めず、ジャズの知識もなかったが、ひたすらに全力で吹いてきた大、幼い頃からジャズに全てを捧げてきた雪祈、初心者の玉田。トリオの目標は、日本最高のジャズクラブ「So Blue」に出演し、日本のジャズシーンを変えること。

2月23日公開の『湯道』は、『おくりびと』の脚本を手掛け、「くまモン」の生みの親でもある小山薫堂氏が2015年に提唱し、日本の文化「お風呂」について精神や様式を突き詰める新たな道「湯道」を、生田斗真さん主演、完全オリジナル脚本で映画化。

亡き父が遺した実家の銭湯「まるきん温泉」に突然戻ってきた建築家の三浦史朗。帰省の理由は店を切り盛りする弟の悟朗に、古びた銭湯を畳んでマンションに建て替えることを伝えるためだった。実家を飛び出し都会で自由気ままに生きる史朗に反発し、冷たい態度をとる悟朗。一方、「お風呂について深く顧みる」という「湯道」の世界に魅せられた定年間近の郵便局員・横山は、日々、湯道会館で家元から入浴の所作を学び、定年後は退職金で「家のお風呂を檜風呂にする」という夢を抱いているが、家族には言い出せずにいた。そんなある日、ボイラー室でボヤ騒ぎが起き、巻き込まれた悟朗が入院することに。銭湯で働いている看板娘・いづみの助言もあり、史朗は弟の代わりに仕方なく「まるきん温泉」の店主として数日間を過ごす。いつもと変わらず暖簾をくぐる常連客、夫婦や親子。分け隔てなく一人一人に訪れる笑いと幸せのドラマ。そこには自宅のお風呂が工事中の横山の姿も。不慣れながらも湯を沸かし、そこで様々な人間模様を目の当たりにした史朗の中で凝り固まった何かが徐々に解されていくのであった。

同じく2月23日公開の『アラビアンナイト 三千年の願い』は、イスラムの説話集「アラビアンナイト」をモチーフに、3,000年の時を超える、魔人と学者の「願い」を巡るファンタジー映画。イギリスの作家A・S・バイアット氏の短編集「The Djinn in the Nightingale's Eye:ナイチンゲール目瓶の中の魔神」を原作に、『マッドマックス』シリーズの鬼才ジョージ・ミラー監督がメガホンをとった。

古今東西の物語や神話を研究するナラトロジー=物語論の専門家アリシアは、講演のためトルコのイスタンブールを訪れた。バザールで美しいガラス瓶を買い、ホテルの部屋に戻ると、中から突然巨大な魔人「ジン」が現れた。意外にも紳士的で女性との会話が大好きという魔人は、瓶から出してくれたお礼に「3つの願い」を叶えようと申し出る。そうすれば呪いが解けて自分も自由の身になれるのだ。だが物語の専門家アリシアは、その誘いに疑念を抱く。願い事の物語はどれも危険でハッピーエンドがないことを知っていたのだ。魔人は彼女の考えを変えさせようと、紀元前からの3,000年に及ぶ自身の物語を語り始める。

『アベンジャーズ』シリーズではヘイムダル役のイドリス・エルバさんが魔神、同じくエンシェント・ワン役のティルダ・スウィントンさんがアリシアを演じた。

同じく2月23日公開の『逆転のトライアングル』は、スウェーデンの鬼才リューベン・オストルンド監督が、ファッション業界とルッキズム、そして現代における階級社会をテーマに描き、2022年・第75回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した人間ドラマ。第95回アカデミー賞でも作品、監督、脚本の3部門にノミネートされた。

モデル・人気インフルエンサーのヤヤと、男性モデルカールのカップルは、招待を受け豪華客船クルーズの旅に。リッチでクセモノだらけな乗客がバケーションを満喫し、高額チップのためならどんな望みでも叶える客室乗務員が笑顔を振りまくゴージャスな世界。しかしある夜、船が難破。そのまま海賊に襲われ、彼らは無人島に流れ着く。食べ物も水もSNSもない極限状態で、ヒエラルキーの頂点に立ったのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃婦だった。

映画ドラえもん のび太と空の理想郷

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』
2023年3月3日全国東宝系にてロードショー
©藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2023

3月3日公開『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』は「ドラえもん」の長編映画42作目。2023年放送の大河ドラマ「どうする家康」などで知られる脚本家の古沢良太氏が、『映画ドラえもん』の脚本を初めて手がけた。

空に浮かぶ謎の三日月型の島を見つけたのび太は、ドラえもんたちと一緒にひみつ道具の飛行船「タイムツェッペリン」で、その島を探しに出かけることに。やっと見つけたその正体は、誰もがパーフェクトになれる夢のような楽園「パラダピア」だった。そしてそこ出会ったのは、何もかも完璧なパーフェクトネコ型ロボットのソーニャだったが、どうやらこの楽園には大きな秘密が隠されているようで。はたしてのび太たちは、その楽園の謎を解き明かすことができるのか。

3月3日公開の『フェイブルマンズ』は、巨匠スティーブン・スピルバーグ氏が、映画監督になるという夢をかなえた自身の原体験を映画にした自伝的作品。

初めて映画館を訪れて以来、映画に夢中になった少年サミー・フェイブルマンは、母親から8ミリカメラをプレゼントされる。家族や仲間たちと過ごす日々のなか、人生の一瞬一瞬を探求し、夢を追い求めていくサミー。母親はそんな彼の夢を支えてくれるが、父親はその夢を単なる趣味としか見なさない。サミーはそんな両親の間で葛藤しながら、さまざまな人々との出会いを通じて成長していく。

前述の通り、第95回アカデミー賞で作品、監督、脚本、主演女優、助演男優ほか計7部門にノミネートされた。

同じく3月3日公開『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、カンフーとマルチバース(並行宇宙)の要素を掛け合わせ、生活に追われるごく普通の中年女性が、マルチバースを行き来し、カンフーマスターとなって世界を救うことになる姿を描いた異色のアクションアドベンチャー。『スイス・アーミー・マン』の監督コンビのダニエルズ(ダニエル・クワン&ダニエル・シャイナート)がメガホンをとった。

経営するコインランドリーは破産寸前で、ボケているのに頑固な父親と、いつまでも反抗期が終わらない娘、優しいだけで頼りにならない夫に囲まれ、頭の痛い問題だらけのエヴリン。いっぱいっぱいの日々を送る彼女の前に、突如として「別の宇宙(ユニバース)から来た」という夫のウェイモンドが現れる。混乱するエヴリンに、「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と驚きの使命を背負わせるウェイモンド。そんな「別の宇宙の夫」に言われるがまま、ワケも分からずマルチバース(並行世界)に飛び込んだ彼女は、カンフーマスターばりの身体能力を手に入れ、まさかの救世主として覚醒。全人類の命運をかけた壮大な戦いに身を投じる。

第95回アカデミー賞では作品、監督、脚本、主演女優ほか最多の10部門11ノミネート。

3月17日公開の『シャザム!〜神々の怒り〜』は、見た目は大人だが中身は子どものヒーロー、シャザムの活躍を描いた、DCコミックス原作のアクションエンタテインメント『シャザム!』(2019年4月公開)のシリーズ第2弾。監督はデビッド・F・サンドバーグ氏が続投。

大人の事情を理解できない「見た目はオトナ、中身はコドモ」の半人前ヒーローのシャザムが、神々を怒らせてしまった。復讐に燃える「神の娘たち」が巨大モンスターを引き連れて地球に降臨。未曾有の危機を前に、頼れるのは?神々の力を宿すシャザムVS神の娘たち。神様だらけの最強バトルが開幕する。

「シャザム(SHAZAM)」は、「S=ソロモンの知恵」「H=ヘラクラスの剛力」「A=アトラスのスタミナ」「Z=ゼウスの万能」「A=アキレスの勇気」「M=マーキューリーの神速」という6つの力をあわせもつヒーロー。なお、シャザムは原作では「キャプテン・マーベル」の名称だったが、DCコミックスが版権を買い取った際には、マーベル・コミックが既に商標登録をしていたため、「シャザム」に改称したという経緯がある。

3月17日公開の『長ぐつをはいたネコと9つの命』は、ドリームワークス・アニメーションのヒット作『シュレック』シリーズから誕生した人気キャラクター、プスを主人公に描く長編劇場アニメ『長ぐつをはいたネコ』(2012年公開)の第2弾。

最強レジェンドから最弱の家ネコになったプスの運命は?お尋ね者の賞金首プスは、今日も戦いに勝って拍手喝采中に、うっかり死んじゃった。気がつけば9つあった命も、残りはラス1。もう絶対に死ねないプスの前に、不気味な刺客ウルフが現れる。ふわふわの全身の毛が恐怖で逆立ち、初めて命の危険を感じたプスは必死に逃亡。剣も長ぐつも名誉も捨て、フツーの家ネコとして隠居してしまう。そこへ、なんでも望みが叶うという「願い星」の噂が舞い込み、フヌケの生活を送っていたプスは、「魔法の地図」を手がかりに伝説の地をめざして再起。美女猫キティと超ヘンテコ犬のペリートも加わって、ヤバすぎる魔の手が迫る中、プスは再び命を増やすことができるか。

第95回アカデミー長編アニメーション賞ノミネート。

3月17日公開の『零落』は、漫画家・浅野いにお氏が漫画家の残酷なまでの業を描いた同名コミックを、斎藤工さん主演で、俳優のみならず映画監督としても活躍する竹中直人さんのメガホンで実写映画化。

8年間の連載が終了した漫画家・深澤薫は、自堕落で鬱屈した空虚な毎日を過ごしていた。SNSには読者からの辛辣な酷評、売れ線狙いの担当編集者とも考え方が食い違い、アシスタントからは身に覚えのないパワハラを指摘される。多忙な漫画編集者の妻ともすれ違い、離婚の危機。世知辛い世間の煩わしさから逃げるように漂流する深澤は、ある日「猫」のような目をした「風俗嬢」ちふゆと出会う。堕落への片道切符を手にした深澤は、人生の岐路に立つ。

なお、株式会社カラーは2月10日、映画『シン・仮面ライダー』の全国公開が3月18日に決まったと発表した。前日の17日には一部劇場を除き午後6時から先行上映を実施する。

『シン・仮面ライダー』は、石ノ森章太郎氏原作の「仮面ライダー」生誕50周年に当たる2021年に発表した完全新作特撮映画。アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズや『シン・ゴジラ』、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』、『シン・ウルトラマン』などで知られる庵野秀明氏が脚本と監督を務め、池松壮亮さん、浜辺美波さん、柄本佑さんらが出演。

庵野秀明氏が監督や脚本などを務める『シン・』を冠とした「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」では4作目となる。

米大統領報道官は13日の会見で、米本土に接近した「高高度物体(HAO)」を米軍が撃墜した件に関し、エイリアンや地球外生命体の活動の兆候はないと否定

カリーヌ・ジャンピエール米大統領報道官と国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官(退役海軍少将)は13日、ホワイトハウスでの会見で、米本土に接近した「高高度物体(High-Altitude Object)」を米軍が撃墜した件に関し、エイリアンや地球外生命体(extra-terrestrial)の活動の兆候はないと否定した。

ジャンピエール報道官は自ら2度、「エイリアンや地球外生命体の活動(aliens or extraterrestrial activity)の兆候はありません」(ホワイトハウスHP)と繰り返した。報道官によると、関連質問が殺到しているとのことで、敢えて言及したとのことだ。なお、報道官は、映画『E.T.』が大好きとのこと。

HAOの撃墜相次ぐ、北米で、10日間で4件、米空軍のF-22とF-16が米国及びカナダの領空で撃墜

大統領報道官が公式の記者会見で、地球外生命体に言及した背景には、過去10日間で4回も中国の高高度偵察気球(米軍説明)や3個のHAOが米本土領空に侵入し、米軍が相次いで撃墜したことがある。

最初は、2月4日にサウスカロライナ州の沖合で中国の偵察気球を米空軍が撃墜、同偵察気球はアラスカ州から米本土を横断、海上に出たところで撃墜。

10日には、アラスカ州の北部領海上で「高高度物体(HAO)」を撃墜。

11日には、カナダ空軍との共同作戦でカナダのユーコン準州でHAOを撃墜。

12日にはミシガン州のヒューロン湖上空でHAOを撃墜。

最初の3件は米空軍のF-22ステルス戦闘機が、4件目はF-16戦闘機が何れも、赤外線画像誘導方式のAIM-9X サイドワインダー空対空ミサイルで撃墜している。

なお、実戦配備済では最新型の第4世代型のサイドワインダーであるAIM-9Xの価格は1発で約40万ドル程度と推定される。

未確認空中現象(UAP)に関する国家情報長官室の年次報告書では、2021 年 3 月以降、247 件の報告

質問に立った記者によると、未確認空中現象(UAP:unidentified aerial phenomena)に関する国家情報長官室(ODNI)の年次報告書では、2021 年 3 月以降、247 件の未確認空中現象の報告があり、そのうちのいくつかは、「異常な飛行特性または性能能力を示した」と記載されていると指摘した。

但し、カービー戦略広報調整官は記者の質問に対して、「私は、これらの飛行物体に関し、米国民がエイリアンについて心配する必要があるとは思いません」と述べた。

なお、2022会計年度国防権限法により、国家情報長官は国防長官と協議の上、UAPに関する年次報告書を議会に提出することが義務付けられた。直近の「UAPに関する年次報告書:2022年版」は、2023年1月12日に発表されている。

一方、北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)のバンハーク司令官は12日の会見で、米・カナダ上空で撃墜した3つの物体について、その起源が宇宙である可能性を米当局として否定しているのかとの問いに対し、「それは情報当局と防諜当局の判断に委ねる。現時点で私は何も排除していない」(13日付けブルームバーグ)と語った。

米政府は、4日にサウスカロライナ州沖合で撃墜した中国の大型気球について、中国人民解放軍による広範な情報収集活動の一環との見方を示しているが、中国側は否定。一方で、国防総省は12日、その後撃墜された、より小規模の物体については誰が飛ばしたものか不明であるとしている。

UFOと言えば、SF的な話だが、足元、世界を賑わしているのは、現実的な国家間の覇権争い

「未確認飛行物体(unidentified flying object、UFO)」と言えば、「空飛ぶ円盤(flying saucer)」が連想され、宇宙の神秘に迫るSF的な話になるが、足元、世界を賑わしているのは、もっと、現実的な国家間の覇権争いに関連する問題だ。

但し、有権者の関心が高いテーマであることは間違いない。米国では、エイリアンやゾンビを信じる人は多く、核戦争のみならず、宇宙人の来襲に備え、シェルター等を建設・購入する人も多い。

米下院では9日、偵察気球に関する中国非難決議を全会一致で可決、ネジレ議会では、対中強硬姿勢はむしろ増幅か

米下院では早速、9日、「中国共産党による米国領上空での高高度偵察気球の使用を、米国の主権に対する厚かましい侵害として非難する決議」が可決された。

注目されるのは、採決結果だ。賛成419、反対0、棄権15と、全会一致となった。

「ネジレ議会」となった第118議会では、下院は共和党が多数派を奪還、議長も共和党のマッカーシー氏が15回の投票を経て選出された。

前週のバイデン大統領の一般教書演説を見ても、党派対立の深刻化が確認されたが、対中国への強硬姿勢だけは、超党派で一致していることが鮮明となった。

バイデン政権も、共和党への配慮のため、強硬姿勢を強める可能性があり、むしろ増幅されそうだ。

今回の撃墜事件は、ブリンケン国務長官の訪中延期に繋がるなど、既に米中関係に影響が出ているが、有権者の関心が高い問題だけに、今後も尾を引きそうな予感がする。

1月24日、BASの終末時計がミッドナイト:人類滅亡まで残り90秒と過去最短を更新

ロシアがウクライナへの全面侵攻を開始したのは2022年2月24日。まもなく丸1年となるが、戦争の長期化は避けられない情勢。

そうした状況を反映して、人類滅亡までの残り時間を象徴的に示す「終末時計」の残り時間が1月24日、過去最短の「90秒」になった。

米核問題専門誌BAS(Bulletin of the Atomic Scientists)は1月24日、記者会見を開き、同誌が発表している、いわゆる「終末時計(Doomsday Clock)」が、ミッドナイト:人類滅亡まで残り「90秒」と、3年ぶりに過去最短を更新したと発表した。

2018年版と2019年版では、23時58分と「世界破滅2分前」と、東西冷戦下の1953年に、ソ連の独裁的指導者ヨシフ・スターリンが亡くなり、米ソの核ミサイルの照準が双方に向いた時以来の過去最短水準に並んでいたが、2020年1月に20秒進められ、単独過去最短となっていた。

冷戦期よりも、終末時計がミッドナイトに近づいたことで、人類史のステージが変わった?

同誌は声明で「これは主に、ウクライナでの戦争の危険性が高まっているため」で、「時計は現在、真夜中まで90秒を指しています。これは、これまでで最も地球規模の大惨事に近づいています」としている。

また、「戦争の影響は、核の危険性の増大だけにとどまりません。気候変動と闘うための世界的な取り組みを弱体化させます。ロシアの石油とガスに依存している国々は、その供給と供給者を多様化しようとしており、天然ガスへの投資が縮小するはずだったまさにその時期に拡大しました」と、気候変動問題への影響も指摘している。

一方で、「本格的な和平交渉への道筋を見つけることは、エスカレーションのリスクを軽減するのに大いに役立つ可能性があります。この前例のない世界的な危険な時代には、協調行動が必要であり、一秒一秒が重要です」と訴えている。

BASは、マンハッタンプロジェクトで最初の原子力兵器の開発を支援したシカゴ大学の科学者が、自身の反省の下、1945年に設立した原子力科学者の会報である。

終末時計は1947年6月に作成。人類と地球への脅威を伝えるために核爆発(ゼロへのカウントダウン)までのDoomsday Clock(終末時計)の分針を移動ないし維持する決定は、BASの科学および安全保障委員会が、10名のノーベル賞受賞者を含むスポンサー委員会と協議して毎年実施している。

2020年以降、冷戦期よりも終末時計がミッドナイトに近づき、2023年には過去最短を更新したということは、やや大袈裟に言えば、人類史のステージが変わったとも言えるかもしれない。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

このページの関連情報