アナリストの忙中閑話【第147回】

アナリストの忙中閑話

(2023年8月24日)

【第147回】異常気象は新常態、エルニーニョ現象継続で今冬は記録的暖冬か、パンデミックと物価の関係、バービー・サンド・ランド、注目映画続々公開

金融経済調査部 金融財政アナリスト 末澤 豪謙

世界気象機関、「異常気象はニューノーマル:新しい常態」、2023年7月の世界の平均気温は観測史上最高

WMO(世界気象機関)は18日、「異常気象はニューノーマル:新しい常態」とするレポートを発表した。

本年7月は観測史上最も暑い月となったが、「これは新たな常態であり、驚くべきことではない」とWMOの気候専門家アルバロ・シルバ氏は語った。「熱波や大雨など、多くの極端な気象の頻度と強度がここ数十年で増加している。温室効果ガスの排出による人為的な気候変動が主な原因であると確信している」と、ジュネーブでの定例記者会見で述べた。

WMOやEU(欧州連合)のコペルニクス気候変動サービス、米海洋大気局(NOAA)、米航空宇宙局(NASA)は、2023年7月の世界の平均気温が観測史上、最高になったと発表している。

NASAによると、1880年以降の記録上、7月は最も高温となったとのこと。1951年から1980年の7月の平均を、華氏で2.10度、摂氏で1.18度上回ったとのことだ。

この暑さは8月も続いている。フランス、スイス、ドイツ、ポーランド、イタリア、ギリシャ、ハンガリー、オーストリア、リトアニアを含む欧州の気象機関は、8月の第3週に熱波に関する警報を発令した。

我が国の気象庁も同様であり、7月以降、毎日のように熱中症警戒アラートを各地に出す一方、大雨や台風等に関する警報も台風6号や7号等に関連して発令してきた経緯にある。

三陸沖の海洋内部の水温は7月、平年より10度高い、黒潮が三陸沖まで北上

特に、注目されるのは、海面水温の上昇に関する気象庁の9日の発表だ。気象庁は、三陸沖では2022年秋以降、海洋内部の水温が記録的に高くなっていることが解析され、7月に行った気象庁の海洋気象観測船「凌風丸」による海洋内部の観測でも、平年より約10度も高い水温を観測したとしている。

これは黒潮続流が三陸沖まで北上していることが原因と考えられ、水産資源の分布などに関連する海洋環境への影響が懸念されるとしている。

これまで、暖流である黒潮は房総半島沖まで北上後、一方、寒流である親潮は夏場に最大で茨城県沖まで(通常は福島県沖まで)南下後、双方が東に蛇行するのが一般的であり、黒潮が三陸沖まで北上しているのは異常と言える。

東北や東京都心でも猛暑日の最多記録更新

今夏は東北でも、最高気温が30度以上の「真夏日」や同35度以上の「猛暑日」が急増、仙台では今年の猛暑日が8月5日段階で6日となり、2015年と去年の5日を超えて観測史上最多となった。また、「真夏日」も8月11日までで19日連続となり、仙台管区気象台が観測を始めた1926年以来、最多記録だった2012年8〜9月の18日連続を更新している。

日本海側ではフェーン現象の影響で気温上昇がより顕著になるとともに、新潟県などでは渇水が深刻化している。

札幌市では8月23日の最高気温は36.3度と、観測史上最高を更新。

「猛暑日」の記録更新は東京都心でも同様であり、8月20日には東京都心(千代田区)で最高気温が35.3度を観測、東京都心の「猛暑日」は今年に入ってから21日目となり、年間の過去最多を更新した。これまでは2022年の16日が最多だった。

また、「真夏日」の連続記録は8月24日段階で、7月6日から50日連続となり、最長記録を大幅更新。従来は2004年の7月6日から8月14日までの40日連続が最長だった。

猛暑は世界的に山火事被害を拡大

猛暑は世界的に山火事被害を拡大させている。

ハワイのマウイ島での山火事に関しては、バイデン大統領が21日、被災地を視察。復興に向け長期支援を約束した。バイデン氏は、ジル夫人とともに壊滅的な被害を受けたラハイナを訪れ、地元の関係者から被害状況の説明を受け、支援に取り組む職員らを激励した。

ラハイナでは、ハリケーン「ドーラ」接近に伴う強風とフェーン現象により、山火事が市街部にも一気に燃え広がり、多くの住民が逃げ遅れることになった。地元当局によると、21日時点で、115人が死亡、行方不明者は850人となっている。

今年は米ニューヨークの空が、カナダ東部の山火事の影響で真っ赤に染まったことが記憶に新しいが、依然、完全な鎮火には至っていない。足元では、北極海に面するノースウェスト準州でも山火事が拡大、イエローナイフには避難命令が出された。また、太平洋岸のブリティッシュコロンビア州でも山火事が拡大、非常事態宣言が発令され、住民3万5,000人に避難命令が出された。ブリティッシュコロンビア州と国境を接する、米西部・ワシントン州でも山火事が発生。

また、スペイン領カナリア諸島のテネリフェ島では、16日に発生した山火事が広がり、2万6,000人以上が避難したとのことだ。

ギリシャでも今年は山火事が頻発しているが、22日には18人の焼死体が見つかっている。

前述のハリケーン「ドーラ」は12日9時(日本標準時)には180度経線を越え気象庁の観測範囲内に入ったため、台風第8号と、越境台風となった。その後、15日15時には熱帯低気圧になった経緯がある。

なお、台風は、東経180度より西の北西太平洋および南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速が約17m/s以上になったものを指す。一方、ハリケーンは、北大西洋、カリブ海、メキシコ湾および西経180度より東の北東太平洋に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速が約33m/s以上になったものを指す。サイクロンは、ベンガル湾やアラビア海などの北インド洋に存在する熱帯低気圧のうち、最大風速が約17m/s以上になったものを指す。

今週、被害が続いたのは、元ハリケーン「ヒラリー」

今週、被害が続いたのは、元ハリケーン「ヒラリー」だ。

ハリケーン「ヒラリー」は18日には「カテゴリー4」のメジャーハリケーンに発達。20日、トロピカルストーム(TS:熱帯暴風雨)に勢力を弱めた後、メキシコのバハカリフォルニア半島に上陸、大きな被害をもたらした。

その後、米カリフォルニア州に上陸、ネバダ州を通過後、トロピカルサイクロン(TC:熱帯低気圧)となった。

カリフォルニア州にTSが上陸したのは26年ぶり、ネバダ州をTSが直撃したのは、観測史上初めてとのことだ。

カリフォルニア州南部は記録的な大雨に見舞われ、幹線道路が閉鎖された。

NOAAは10日、2023年大西洋ハリケーンシーズンのアウトルックを、従来の平年に近い活動レベルから、平年を超える活動レベルに引き上げた

なお、NOAAは10日、2023年大西洋ハリケーンシーズンのアウトルック(見通し)を、従来の平年に近い活動レベルから、平年を超える活動レベルに引き上げた。確率は60%、従来の予測は30%だった。

最新の予測では11月30日迄の6か月間のハリケーンシーズン全体を対象としており、名前付きのストーム(風速39マイル以上)が14〜21個発生するとしており、そのうち6〜11個がハリケーン(風速74マイル以上)になる可能性があるとしている。そのうち 2〜5個はメジャーハリケーン(風速111 マイル以上)に発達すると見込まれている。海面水温の上昇を予測変更の要因に挙げている。

本来、エルニーニョ現象は大西洋のハリケーン発生を抑制する効果があるが、今年は大西洋の海面水温が異常に高温となっているため、同現象の効果を相殺しているとのこと。

我が国でも、長期間にわたって沖縄近海に停滞した台風6号及び本州に上陸した台風7号では大きな被害が発生した。

特に、台風7号の影響で15日から17日まで、3日間に渡り、東海道・山陽新幹線の運行に支障が発生、「お盆」の帰省等に多大な影響を与えることになった。

世界の海面水温は例年3月が年間のピークとなるが、今年は足元、最高水温を更新中

前述の三陸沖の海水温の異常高温のみならず、今年は、世界中で、海面水温が異常値を示し、観測史上最高を更新している。

足元の猛暑への警戒も重要だが、より深刻なのは、今冬が記録的な暖冬になる可能性だろう。

気温上昇の要因は、人為的な地球温暖化に加え、5月に発生したエルニーニョ現象の影響が考えられる。特に、今年の場合、海面水温が異常な高温となっているが、異常値を示し始めたのはエルニーニョ現象発生後だ。

通常、世界の海面水温は3月が年間のピークとなるが、今年は足元、最高水温を更新中だ。

エルニーニョ現象が今冬まで続く可能性は90%以上、今冬は記録的な暖冬となる可能性が一段と高まる

そのエルニーニョ現象だが、気象庁は8月10日発表のエルニーニョ監視速報(No. 371)で、「春からエルニーニョ現象が続いている。今後、冬にかけてエルニーニョ現象が続く可能性が高い(90%)」とし、今冬まで継続する見込みだ。

NOAA傘下の気候予測センター(CPC)も8月10日に発表したレポートで、2023年12月から2024年の2月の冬まで、エルニーニョ現象が続く可能性を95%以上としている。

NASAはエルニーニョ現象の影響が海面水温などに与える影響が大きくなるのは、2024年の2月から4月としている。

今冬は記録的な暖冬となる可能性が一段と高まってきたと言えそうだ。

日銀は7月の会合で長期金利の変動幅±0.50%程度を「目途」とした上で、指し値オペの水準を0.5%から1.0%に引き上げ

金融市場では、台風以上に注目度が高いのが、執行部が一新された日銀の金融政策だ。

植田氏が日銀総裁に就任後、3回目の金融政策決定会合となった7月27-28日の会合では、長期金利の変動幅±0.50%程度を「目途」とした上で、指し値オペの水準を0.5%から1.0%に引き上げた。尤も、1.0%未満の水準でも機動的な国債買い入れオペを行うとし、実際に臨時オペを行っていることから、1.0%水準への金利上昇を容認した訳ではなく、やや意図が分かりづらい決定内容となった。

これは、金融緩和継続の方針を維持しつつ、市場機能に配慮し将来の金利上昇に備えるための「高等戦術」と考えられる。実際、日銀は今回の措置を、「イールドカーブ・コントロール(YCC)の運用の柔軟化」と称しているが、植田総裁は会合後の会見で「修正と意味は違わない」としており、将来の金融政策の正常化に備えた修正と考えられる。

長期金利も足元0.6%台で推移しており、直に1%をトライする雰囲気にはない。

黒田前総裁と植田新総裁との違いは、物価見通し

頑なに金融緩和の継続を10年間主張し続けた黒田前総裁と植田新総裁との違いは、その性格(大蔵官僚出身の黒田氏は「学者的」であるのに対し、学者出身の植田氏の方が現実主義で「融通無碍の実務派」との筆者の印象)にもあるが、やはり、物価見通しの違いが大きいと言えそうだ。

植田氏は7月28日の会見で物価見通しの修正に関し、「23年度の見通しが大幅に上振れた、つまり4月時点の見通しは、やや過小、あるいはかなり過小であった。その分、上振れ方向にかなり大幅にずれた。そういう不確実性をやや過小評価していた可能性が4月時点ではあるということでございます」(日銀HP、以下同じ)とし、「物価の見通しには下振れもありますけれども、上振れリスクもあって、その不確実性がかなり大きい。足元を外したということを考えても大きい」と、黒田氏がほとんど意識していなかった、少なくとも強く言及していなかった物価の上振れリスクを強調している。

勿論、現段階では、物価は上振れ・下振れリスクの両方の「不確実性がかなり大きい」ことから、現行の金融政策の枠組みを維持するとしているが、指し値オペ水準の0.5%から1.0%への引上げは、「将来のリスク対応として、ゼロ±0.5%の外に0.5%から1%という枠を、柔らかなかたちでといいますか、全体が柔らかになっていますが、作った」としている。

コロナ禍と物価の関係、パンデミックはデフレ要因かインフレ要因か?

7月28日の植田総裁の会見に関連し、筆者が注目したのは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックがデフレ要因かインフレ要因かに関する新旧の日銀総裁の認識の違いだ。

2023年6月16日の植田総裁の会見では、記者の「コロナがデフレ・インフレに与えた影響」に関する質問に関し、「これは世界的に、割とコロナあるいはコロナとともに起こった様々なことがどういうふうにインフレ率に影響を与えたかという点は、かなり共通なのかなと思ってございます。いろいろなエコノミスト等の分析も出てきていますけれども、これがおそらく様々な供給ショックとなって、一部需要と相互作用した面もありますけれども、世界的に物価に強い上昇圧力を及ぼした、それが日本にも及んできたというのが一つ言えることかなと思います」と述べ、基本的にインフレ要因との認識を示している。

一方、黒田前総裁は2020年以降、金融政策決定会合の会合で、少なくとも4回、「コロナ禍と物価の関係」に関し記者(同一人物とみられる)から質問を受けているが、基本的にデフレ要因との評価が示されている。

直近の2022年10月28日の会見でも、「コロナ禍自体は、非常に消費を減退させて、経済も成長もマイナス成長になり、物価上昇率も低下したということではデフレ的だった」としており、その後の海外でのインフレは、主要中央銀行による金融緩和、コロナ収束に伴うペントアップ・ディマンドによる消費の回復、ウクライナ戦争等に伴うエネルギー価格や食料品の価格の上昇、労働市場のタイト化が背景としている。一方、「日本はそういうふうになっていない」としており、少なくとも、2022年10月段階では、基本的にコロナ禍はデフレ要因と認識していたようだ。

100年前に発生したパンデミック、いわゆる「スペイン風邪」の事例

COVID-19パンデミックは、パンデミック宣言が出された2020年春段階では、世界的にデフレ要因と目されたが、未曾有・空前絶後の金融緩和・財政出動に加え、供給制約やエネルギー価格の上昇等を受けて、世界的にインフレ要因に転化、ウクライナ戦争の勃発も相俟って、2022年春以降、米欧中央銀行の利上げ加速とバランスシートの縮小等が進展することになったと、筆者は評価している。

実は、今から100年前に発生したパンデミック、いわゆる「スペイン風邪」の収束後も世界的にインフレが高進した経緯がある。

新型インフルエンザの1918パンデミック(H1N1ウイルス)では、約5億人または世界人口の3分の1がこのウイルスに感染し、死亡者は世界中で2,000万人から5,000万人、ないし世界人口の1〜3%が死亡したとされる。

一方、COVID-19の超過死亡は2020年及び2021年で約1,500万人(WHO)とされることから、2022年及び2023年分を加えると、死亡者の絶対数はスペイン風邪の下限にほぼ匹敵するとみられる。但し、100年前の人口は20億人弱、現在は80億人程度と、人口比での致死率は、スペイン風邪が4倍から10倍高かったと想定される。

当時は、第1次世界大戦(1914年7月から1918年11月)の最中で、米国の参戦によりパンデミック化、戦争の終結を早める要因になったとも言われる。米国の感染第1波は1918年春、第2波は1918年秋、第3波は1919年春だった。

大戦争に伴うインフラの損耗や財政出動等に伴い、我が国を含め、世界中でインフレが高進、ドイツ等敗戦国では戦時賠償等の影響もあり、ハイパーインフレーションに見舞われている。

但し、当時の供給制約に与えた影響は、実は、スペイン風邪の影響も大きかったと考えられる。第1次世界大戦では戦闘員及び民間人含め1千万人から4千万人が亡くなったとされるが、その3分の1程度はスペイン風邪による病死とみられ、1918年から1919年頃の死者全体では、スペイン風邪による死者が、戦闘による戦死者を大きく上回っていたと考えられる。

しかも、スペイン風邪では、COVID-19と異なり、致死率は若年層が高く、高齢層は低かった。サイトカインストームの影響と高齢層は免疫を有していた可能性が指摘されている。

つまり、大戦(グレート・ウォー)とスペイン風邪で若年層が大量に死去ないし長期療養が必要となったことで、雇用面での供給制約が長引き、その後のインフレに寄与したことが考えられる。

スペイン風邪とCOVID-19のパンデミックには、異なる面も多いが、パンデミックから2年目の2021年後半以降、供給制約の影響から、世界的にインフレが高進したことには留意する必要がありそうだ。

欧州大陸部での昨シーズンの暖冬の影響もあり、欧米ではインフレはピークアウトしたが、ウクライナ戦争の長期化や台湾情勢の緊迫化等東西対立の深刻化が、グローバル化を巻き戻し、需要と供給のミスマッチの拡大要因になる可能性には、今回も注意が必要だろう。

また、前述の気候変動対策も、今後は大きなコストアップ要因となりそうだ。

少子高齢化と物価の関係

また、若年層の減少と言う面では、少子高齢化も同様な影響をもたらす。筆者はかねて、少子高齢化は、パンデミック同様、初期段階では需要減に伴うデフレ要因となるが、一定の期間を過ぎると、インフレ要因に転じるとの見方を示してきた。

背景には、生産年齢人口の減少は、需要減とともに供給減をもたらすことが挙げられる。需要減は生産の海外移転も促進する。一方、高齢層の消費は継続することで、原材料のみならず、食料品や製品の多くを海外からの輸入に頼ることになると、海外発のインフレを輸入することになる。また、こうした状況では、貿易サービス収支の赤字拡大に加え、経常収支の黒字が減少、為替相場の下落が一段の輸入インフレ要因になりかねない。人手不足は特に、サービス産業で深刻だ。既に現在、タクシーの空車やホテルの空室があっても、人手不足が稼働率の低下に繋がっている。

結果、少子高齢化が一定水準進行すると、インフレ要因に転化するとの見方だ。

ちなみに、2022年の我が国の老年化指数は249.9。世界で唯一、200台だ。最近、少子化が指摘されている韓国は151.2、中国は79.6に過ぎない。(注)老年化指数:65歳以上人口/15歳未満人口×100

金融政策と政権支持率

黒田前総裁は世界的なインフレ高進に対しても、金融緩和を維持し続けたが、米国ではインフレがバイデン大統領の支持率低下に繋がり、政権の意を受けた形で、FRBがタカ派転向した経緯にある。

岸田首相の支持率が低下する中、植田総裁が今回、YCC政策の柔軟化(修正)を決定したことは、今後の政策動向を占う上でインプリケーションになりうるかもしれない。

岸田政権が危惧するのは、構造的な賃上げの環境が整う前に、円安の一段の進行等で国内物価が上昇し、実質所得のマイナスが長期化することだろう。

植田総裁は28日の会見で、「日本銀行として、当然のことですが為替をターゲットとしていないということは変わりはありません。ただ、この副作用の話の中で、金融市場のボラティリティをなるべく抑えるというところの中に、今回は為替市場のボラティリティも含めて考えてございます」と述べている。

今後も円安⇒国内物価上昇の経路が明確になれば、一段のYCC政策の柔軟化(修正)はあり得ると言えそうだ。

植田総裁ら日銀の新執行部は基本的には緩やかペースでの金融政策の正常化を展望しているとみられるが、そのスピードは、やはり物価動向次第か。日銀の新執行部の下、異次元緩和からの出口議論が本格化するか、引き続き注目したい。尤も、今回の修正のように、長期間にわたって「ステルス戦略」ないし「あいまい戦略」を採る可能性も否定できない。

映画観客動員ランキングで『キングダム 運命の炎』が初登場から4週連続第1位

前週末(8月18日-20日)の映画の観客動員ランキングでは、前月号で特集した『キングダム 運命の炎』が初登場以来4週連続で第1位を獲得した(興行通信社調べ、以下同じ)。累計成績は動員289万9,000人、興収41億6,900万円を記録。

公開直後に鑑賞したが、コロナ禍で日本人俳優やスタッフの中国渡航が出来なかったにも関わらず、現地での壮大なロケとのコンビネーションは抜群で、前作以上にハリウッド並のスケールの大きさが印象に残った。また、毎回のことだが、原作にそっくりな登場人物も見もの。ただ、このままの公開ペースでは、筆者が毎週愛読している「週刊ヤングジャンプ」に連載されている原作に追い付かないのではと心配になった。

第2位は前々月号で特集した宮崎駿監督の『君たちはどう生きるか』が前週の3位からランクアップ。累計成績は動員464万5,000人、興収69億8,300万円。

第3位は、前月号で特集した『マイ・エレメント』が前週の5位からランクアップ。累計成績は動員133万5,000人、興収17億400万円。

第4位は、やはり前月号で特集した『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』が前週の第2位からランクダウン。累計成績は動員296万8,000人、興収45億円を超えた。

公開直後に鑑賞したがシリーズ最高傑作と言える作品。『PART TWO』の公開が待たれる。現時点では2024年6月28日に公開予定だが、前月号で取り上げた米俳優組合のストライキが長期化の様相を強めており、延期となる可能性が高そうだ。

第5位には、やはり前月号で特集した『しん次元!クレヨンしんちゃん THE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司』が入った。シリーズ初となる3DCGアニメーション作品だが、ストーリーも大人を含め家族で楽しめる作品に仕上がっている。

第6位は鳥山明氏原作の『SAND LAND』がランクイン。予想以上の出来で、是非、鑑賞をお薦めしたい(後述)。

第7位も前月号で特集した『リボルバー・リリー』がランクイン。1924年の帝都・東京を舞台としたレトロな雰囲気の中での綾瀬はるかさんのアクションシーンが印象的な映画。

第8位及び第9位も本コラムで特集した、『トランスフォーマー/ビースト覚醒』、『バービー』(後述)が入った。

夏休み終盤も、引き続き内外の注目映画が公開

夏休みも終盤だが、引き続き内外の注目映画の公開が予定されている。

8月25日公開の『春に散る』は、沢木耕太郎氏原作の同名小説を佐藤浩市さんと横浜流星さんのダブル主演で映画化。『ラーゲリより愛を込めて』の瀬々敬久監督がメガホンをとった。

40年ぶりに日本の地を踏んだ、元ボクサーの広岡仁一。そんな広岡の前に不公平な判定負けに怒り、一度はボクシングをやめた黒木翔吾が現れ、広岡の指導を受けたいと懇願する。やがて翔吾をチャンピオンにするという広岡の情熱は、夢を諦めた人々を巻き込んでいく。

同じく、8月25日公開の『MEG ザ・モンスターズ2』は、ジェイソン・ステイサムさん主演で、巨大ザメ「メガロドン」の恐怖を描いた海洋パニックアクション『MEG ザ・モンスター』シリーズ第2弾。なお、「メガロドン」は約2,300万年前から360万年前の前期中新世から鮮新世にかけて実在していた絶滅種の鮫。

地球の最深部「マリアナ海溝」。10キロの深海に謎の生命活動の存在を探知した研究チームは、潜水レスキューのプロであるジョナス・テイラーとととに、生物がほとんど存在しないはずの人類未踏の地へと向かう。そこで彼らは、触れてはいけない恐怖の世界を目覚めさせてしまう。待ち受けていたのは、見たこともない大きさとどう猛さで、生態系の頂点に君臨する最恐のサメ「MEG(メガロドン)」の群れと、さらなる巨大生物たちだった。深海からビーチまで襲い来る絶体絶命の危機に、彼らはどう立ち向かうのか。

こんにちは、母さん

こんにちは、母さん
2023年9月1日全国公開
©2023「こんにちは、母さん」製作委員会

9月1日公開の『こんにちは、母さん』は、91歳にして90本目の監督作となった山田洋次氏がメガホンをとり、吉永小百合さんを主演に迎え、現代の東京・下町に生きる家族が織りなす人間模様を描いた人情ドラマ。「母べえ」「母と暮らせば」に続く「母」3部作の3作目にあたり、劇作家・永井愛の戯曲「こんにちは、母さん」を映画化。

大会社の人事部長として日々神経をすり減らし、家では妻との離婚問題、大学生になった娘・舞(永野芽郁)との関係に頭を悩ませる神崎昭夫(大泉洋)は、久しぶりに母・福江(吉永小百合)が暮らす東京下町の実家を訪れる。「こんにちは、母さん」。

しかし、迎えてくれた母の様子が、どうもおかしい。割烹着を着ていたはずの母親が、艶やかなファッションに身を包み、イキイキと生活している。おまけに恋愛までしているようだ。久々の実家にも自分の居場所がなく、戸惑う昭夫だったが、お節介がすぎるほどに温かい下町の住民や、これまでとは違う「母」と新たに出会い、次第に見失っていたことに気付かされてゆく。

同じく、9月1日公開の『ホーンテッドマンション』はディズニーランドの人気アトラクションを実写映画化。

医師でシングルマザーのギャビーと9歳の息子のトラヴィスの親子が破格の条件で手に入れた、豪華すぎるマイホーム。だがそこは、999人のゴーストが住むという「呪われた館」だった。2人を救うため、かなりクセが強い4人の心霊エキスパート(超常現象専門家のベン、歴史学者のブルース、霊媒師のハリエット、神父のケント)が集結。果たして、この館に秘められた謎とは何か。「恐怖」と「笑い」がノン・ストップで押し寄せるアトラクション・ムービー。

9月8日公開の『劇場版シティーハンター天使の涙(エンジェルダスト)』は北条司氏原作の人気コミックをアニメ化した「シティーハンター」の劇場版。

冴羽リョウは裏社会ナンバーワンの実力を持つ始末屋「シティーハンター」。新宿を拠点にパートナーの槇村香と様々な依頼を受けている。新たな依頼人は動画制作者・アンジー。その依頼は、何と逃げた猫探し。リョウはアンジーの美貌に、香は高額の報酬に胸を躍らせる。警視庁の野上冴子は海坊主と美樹の協力を得てバイオ企業ゾルティック社の発明について捜査する。それは謎の組織の依頼で作られた戦場の兵士を超人化する闇のテクノロジーで、かつてリョウを蝕み、パートナー槇村秀幸を死に追いやった「エンジェルダスト」の最新型だった。猫探しに奔走する中、アンジーの命が狙われる。依頼の真意を語ろうとしないアンジーは動画に映るリョウを見つめ、ひとり呟く。「これがあなたの『最高傑作』なのですか」。「エンジェルダスト」を求めて現れる暗殺者たち。壮絶な戦いに巻き込まれていく獠たちを遠く見つめる男。それはリョウの育ての親・海原神。海原がその銃口を定める時、宿命の対決が始まる。

『ミステリと言う勿れ』

『ミステリと言う勿れ』
2023年9月15日全国東宝系にてロードショー
©田村由美/小学館©2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27社

9月15日公開の『ミステリと言う勿れ』は、田村由美氏の人気少女漫画を菅田将暉さん主演で実写化した連続テレビドラマ「ミステリと言う勿れ」の劇場版。「広島編」をもとに、広島の名家・狩集家をめぐる遺産相続事件の顛末を描く。

天然パーマでおしゃべりな大学生・久能整は、美術展のために広島を訪れていた。そこで、犬堂我路の知り合いだという一人の女子高生・狩集汐路と出会う。「バイトしませんか。お金と命がかかっている。マジです。」そう言って汐路は、とあるバイトを整に持ちかける。それは、狩集家の莫大な遺産相続を巡るものだった。

当主の孫にあたる、汐路、狩集理紀之助、波々壁新音、赤峰ゆらの4人の相続候補者たちと狩集家の顧問弁護士の孫・車坂朝晴くるまざかあさはる(松下洸平)は、遺言書に書かれた「それぞれの蔵においてあるべきものをあるべき所へ過不足なくせよ」というお題に従い、遺産を手にすべく、謎を解いていく。ただし先祖代々続く、この遺産相続はいわくつきで、その度に死人が出ている。汐路の父親も8年前に、他の候補者たちと自動車事故で死亡していたのだった。次第に紐解かれていく遺産相続に隠された「真実」。そしてそこには世代を超えて受け継がれる一族の「闇と秘密」があった。

9月15日公開の『グランツーリスモ』は、世界的人気を誇る日本発のゲーム「グランツーリスモ」から生まれた実話をハリウッドで映画化したレーシングアクション。

世界的大ヒットのドライビングゲーム「グランツーリスモ」のプレイに夢中なヤン。父親からは「レーサーにでもなるつもりか、現実を見ろ」とあきれられる日々。そんなヤンにビッグチャンスが訪れる。世界中から集められた「グランツーリスモ」のトッププレイヤーたちを、本物の国際カーレースに出場するプロレーサーとして育成するため、競い合わせて選抜するプログラム「GTアカデミー」だ。プレイヤーの並外れた才能と可能性を信じて「GTアカデミー」を立ち上げたひとりの男と、ゲーマーなんかが通用する甘い世界ではないと思いながらも指導を引き受ける元レーサー、そしてバーチャルなゲームの世界では百戦錬磨のトッププレイヤーたちがそこに集結。彼らが直面する、想像を絶するトレーニングやアクシデントの数々。不可能な夢へ向かって、それぞれの希望や友情、そして葛藤と挫折が交錯する中で、いよいよ運命のデビュー戦の日を迎える。

9月15日公開の『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』は『オリエント急行殺人事件』、『ナイル殺人事件』に続く、アガサ・クリスティ原作、ケネス・ブラナー監督・主演の「名探偵ポアロ」シリーズ第3弾。ベネチアで隠遁生活を過ごしていたポアロは、霊媒師のトリックを見破るために、子供の亡霊が出るという謎めいた屋敷での降霊会に参加する。しかし、その招待客が、人間には不可能と思われる方法で殺害され、ポアロ自身も命を狙われることに。はたしてこの殺人事件の真犯人は、人間か、亡霊か。世界一の名探偵ポアロが超常現象の謎に挑む、水上都市ベネチアを舞台にした迷宮ミステリーが幕を開ける。

9月15日公開の『アリスとテレスのまぼろし工場』は、『さよならの朝に約束の花をかざろう』の岡田麿里氏の原作・監督・脚本の第2作。

突然起こった製鉄所の爆発事故により全ての出口を失い、時まで止まってしまった町で暮らす中学三年生の正宗。いつか元に戻れるように、住人たちは変化を禁じられ鬱屈した日々を過ごす中、謎めいた同級生の睦実に導かれ、製鉄所の第五高炉へと足を踏み入れる。そこにいたのは喋ることのできない、野生の狼のような少女―。二人の少女と正宗との出会いが世界の均衡を崩していき、日常に飽きた少年少女たちの、止められない「恋する衝動」が世界を壊し始める。

バービー・サンド・ランド、男女差別や人種差別に加え、戦争もない世界

2023年の全世界の映画興収第1位は『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』(ユニバーサルピクチャーズ)の13億5,905万ドルだが、第2位の『バービー』(ワーナーブラザーズ)の12億8,636万ドルが猛追している(Box Office Mojo調べ、8月23日現在)。米国内の興収では、前者の5億7,426億ドルに対し、後者は5億7,286万ドル。

我が国では8月11日に公開された『バービー』は、アメリカのファッションドール「バービー」を、マーゴット・ロビーさんとライアン・ゴズリングさんの共演で実写映画化したものだが、国内での観客動員ランキングは初登場8位に対し、2週目の前週末は9位にランクダウンするなど、海外での好調ぶりとは状況が異なっている。

背景には、いわゆる「バーベン・ハイマー」といわれる『オッペンハイマー』との米国内での映画館の併せ売り戦略への反感と、米国ワーナーブラザーズの米公式アカウントの不適切な反応の影響が大きいとみられる。

なお、『オッペンハイマー』(日本公開日未定)は、クリストファー・ノーラン監督が、原子爆弾の開発に成功したことで「原爆の父」と呼ばれたアメリカの物理学者ロバート・オッペンハイマーを題材に描いた歴史映画。

但し、『バービー』自体は原爆との関係は全くなく、「ジェンダー平等」等をテーマに、ライアン・ゴズリングさんの出演もあり、『ラ・ラ・ランド』(2016年公開)の趣もあるミュージカル的な映画だ。

なお、『バービー』の舞台は、すべてが完璧で今日も明日も明後日も「夢」のような毎日が続くバービーランド。

仮に、我が国で併せ売りをするのなら、『バービー』から1週間遅れの8月18日に公開された『SAND LAND(サンドランド)』との相性が良いだろう。同作品は、「ドラゴンボール」の鳥山明氏が2000年に手がけたコミック「SAND LAND」をアニメーション映画化したもの。

実は、両作品とも、多様性(ダイバーシティ)や包摂(インクルージョン)といった現代的なテーマが底流に流れている。

海外で両作品の同時上映を行い、「バービー・サンド・ランド」というフレーズが広まれば、日本文化への理解も一段と深まるのではないか。

仮に、「バービー・サンド・ランド」の世界が実現すれば、男女差別や人種差別に加え、戦争もない世界になろう。

末澤 豪謙 プロフィール

末澤 豪謙

1984年大阪大学法学部卒、三井銀行入行、1986年より債券ディーラー、債券セールス等経験後、1998年さくら証券シニアストラテジスト。同投資戦略室長、大和証券SMBC金融市場調査部長、SMBC日興証券金融市場調査部長等を経て、2012年よりチーフ債券ストラテジスト。2013年より金融財政アナリスト。2010年には行政刷新会議事業仕分け第3弾「特別会計」民間評価者(事業仕分け人)を務めた。財政制度等審議会委員、国の債務管理の在り方懇談会委員、地方債調査研究委員会委員。趣味は、映画鑑賞、水泳、スキューバダイビング、アニソンカラオケ等。

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