FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」
【第62回】

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(2022年6月30日)

【第62回】インフレ下における保有資産の配分と相続対策

FPの相続コラム「子々孫々へ遺す想い」では、相続に関連したお役立ち情報から最新の話題までをお伝えいたします。第62回目のコラムは、「インフレ下における保有資産の配分と相続対策」に関するお話です。

政府から打ち出された「資産所得倍増プラン」

2022年6月7日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2022」を決定し公表しました。その中には 、資産所得倍増を目指し、「貯蓄から投資へ」の流れを大胆・抜本的に進める総合的な『資産所得倍増プラン』を本年末に策定することが盛り込まれました。方法としては、現行の少額投資非課税制度(NISA)の抜本的拡充や個人型確定拠出年金(iDeCo)制度の改革に加え、国民の預貯金を資産運用に誘導する新たな仕組みの創設などの総合的なプランが策定される予定です。

現状における「貯蓄から投資」へのシフトの状況

子々孫々挿絵

金融庁が公表している2021年12月末時点のNISA・つみたてNISA・ジュニアNISAの口座数は合計で約1,838万口座で、非課税利用枠での買付額合計は約26兆8千億円となり、毎年2桁以上の増加が続いています。特に将来の老後資金などへの不安から、若年層の「つみたてNISA」の活用が広がっています。また2001年から始まった私的年金制度の iDeCo は2017年1月に専業主婦や公務員も加入対象となったことで、そこから5年間で加入者は約8倍に増え、2022年4月現在における加入者数は242万4千人※となっています。

このように投資や資産形成に関する優遇制度の利用者数は右肩上がりで着実に増加しています。しかし日本全体の家計が保有する金融資産に占める現金・預貯金の割合は、1996年以降50%前後で推移しており、現在も個人金融資産約2,000兆円の半分以上が現金・預貯金で保有されています。長年政府が掲げてきた「貯蓄から投資へ」という政策目標は現在においても道半ばというのが実情です。
※国民年金基金連合会 iDeCo公式サイトより

シフトが進まなかった要因

これには様々な要因があると思います。一つは、日本の給与水準がこの30年間ほとんど上がらず、平成の前半に比べるとむしろ下がっているということが大きな要因だと思います。30代、40代は勤労所得の多くを住宅ローンの返済や教育費に充て、資産形成に回す余裕資金に乏しいという現実があります。また、約8割の金融資産を保有する50歳以上の年代は、人生100年時代の長い老後を考え安全資産としての貯蓄を重視する傾向にあります。もう一つの要因は、1990年代半ばから続いたデフレの影響ではないかと思います。デフレ下では、モノの値段は上がらず、金利が低くてもコツコツと貯蓄を続けていけば困ることがなく、リスクをとって資産形成を行わなくても良かったということであったのだと思います。その他の要因としては、相場環境が良くなかった、海外との制度比較で大きく見劣りする、資産形成という観点からの金融教育が行われてこなかったため、金融に関する知識や情報を正しく理解し、主体的に判断することができる能力が磨かれてこなかった、資産運用会社や銀行、証券会社など販売会社側の姿勢の問題といった様々なことが挙げられます。

物価上昇期の資産配分と相続対策

しかし、今年に入ってから物価上昇が顕著になりました。その一方で、高齢者の方の年金支給額は、計算方法の改定もあり2年続けて減額され、今年10月からは、一定の収入がある75歳以上の方の医療費の自己負担が1割から2割に上がることも決まりました。高齢者の方にとっては、まさに三重苦ともいえる状況です。モノやサービスの値段が上がると相対的にお金の価値は下がり、超低利率の預貯金一辺倒では保有資産の目減りが生じます。物価上昇時の現在、保有資産の目減りを防ぐには、預貯金の他に現物資産や有価証券も含めた形で保有資産の配分を見直すことが必要といえます。また、相続対策についても、デフレ下とは違った視点が必要です。ご自身又はご夫婦が、今後のさらなる物価上昇があっても安心して老後生活をお送りいただけるということを最優先にお考えいただき、かなりの資金的な余裕をもったうえでの対策をお考えいただくことが重要になっています。また、相続税・贈与税の一体化を前に、駆け込み生前贈与を行う方が増加していますが、贈与を受ける側の方も、インフレ下における贈与資産の目減りを防ぐため、贈与資産の運用について検討していく必要があるのではないかと思います。インフレ時代の相続対策は、デフレ時代の相続対策とは違った視点で考えていく必要がありそうです。

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